第四巻 まえがき
この巻所収の日誌のうち、中心になる三篇はインドへの旅行である。前回のインド旅行は一九七〇年（『南アジア旅日記』日本交通公社出版部）だった。なぜ、こんなにしばしばインドに足をはこんだのか、といえば、インディラ・ガンジー公開大学の要請にこたえてあらたな視聴覚センターの建設が日本政府の無償援助の対象となり、わたしがその事前調査の団長に任命されたからである。おなじようなしごとはすでにスリ・ランカでも経験済みである。途上国へのこうしたお手つだいの機会があたえられるというのは名誉でもあるし、とりわけアジア諸国の発展にいささかでも貢献できるのはうれしいことだ。だから合計三回、インドに「通勤」した。
しかし、東南アジアとちがって南アジアは文化的風土がかなり独特である。したがってこの任務はきわめて困難だった。団員のみなさんといっしょにずいぶん苦労した。だが、紆余曲折の結果、どうにかこの事業は無事に進行し、一九九五年の夏に建物は完成した。
時間のたつのははやいもので、この巻を刊行する一九九六年三月はわたしにとって放送教育開発センター所長を八年間つとめ、その任期が満了する月でもある。その意味ではこの巻は退官というひとつの折り目を記念するささやかな出版にもなった。これからは自由な旅行者として、さらに知見をふかめてゆきたいとひそかに決意しているところなのである。
一九九六年三月
加藤秀俊