加藤秀俊 著作データベース
降水確率
発行年月: 20040705
掲載 : 朝日新聞（夕）「こころの風景」
発行元 : 朝日新聞社
選手の打率三割というのはじつに明快でよくわかる。だが、明日の降水確率は20%という、あれがよくわからない。ことばのうえではなんとなく見当がつくが、具体的にどういうことなのか理解しようとすればするほどわからくなる。
20%ということは五分の一ということである。「明日」といえば常識的にかんがえて二十四時間である。その五分の一なら六時間あまりである。だが、ちゃんと六時間雨が降るかといえばそうではない。一日どころか三日たっても雨にならないことがしばしばである。
時間ではなく空間ではどうか。東京都の面積は二千平方キロメートルほどある。その五分の一なら四百平方キロ。でもそれだけの面積を限定して明日のうちに雨が降る、ということもなさそうである。
だが、こんなふうにひねくれてかんがえるからいけないので、べつな角度からみると要するに20%の予報というものは五回に一回アタる、ということなのであろう。つまり五回に四回はハズれなのである。あの20%というのを降水という事実の確率ではなく､予想への信頼度としてみれば納得がゆく。でも20%というのはあんまりアテにはしないでくださいよ、ということだからちょっとおかしい。
もっとも当日の短期予報では「ところによって一時雨」といってくれる。そのほうが降水確率20%といわれるよりわかりやすくて安心である。 （社会学者）
加藤秀俊著作データベース
文書管理番号: 2986