加藤秀俊 著作データベース
未完成物語時代
発行年月: 19570526
掲載 : 毎日新聞 （夕）
発行元 : 毎日新聞大阪本社
未完成物語時代 （「毎日新聞―だんまり」１９５７・５・２６）
ＮＨＫテレビ、大阪テレビの両局の番組をしらべると、両方あわせて一週間に二十本くらい連続ドラマというやつがある。これらのテレビ・ドラマのいくつかを習慣的に見るようになって、私ははじめて自分のあたまのなかに「未完成物語」とでも呼びうるような中途半端なものが渦巻いていることに気がついた。
実際、ドラマがクライマックスに来ると、そこでプツンと切れてあとは来週のおたのしみ、というわけだから、何のことはない。子供の紙芝居みたいなものだ。
だが、よく考えてみると、現代人のあたまのなかには、こういう未完成物語がギッシリつまっているのではないか。毎朝毎晩の新聞小説、毎週連続の週刊小説、月刊雑誌の連載小説、毎日、あるいは毎週の連続ラジオ・ドラマ、そしてテレビ。よくまあこれだけたくさんの物語の「前回までのあらすじ」をおぼえているものだ、と感心したくなるくらいである。毎週きまった日のきまった時間になると、書きかけの原稿を記憶のなかからひっぱり出してきてチョコチョコと書き加え、次の瞬間にはべつな未完成物語をちょっぴり進行させる、というはなれわざを現代人はマス・メディアから強制されているのだ。
もっとも、メディアの側からいえば、あわやというところで翌週までおあずけを食わせておくことがまさに購読率・聴取率を維持するための術策のひとつなのだし、未完成なるがゆえに我々凡俗はヘンな未練で一週間を待ちわびているともいえよう。こう未完成物語の数がふえてくると、これは精神衛生上の大問題だ。Ａの物語とＢの物語をとりちがえてつなぎ合わせたり、あれこれのドラマが混線したりして、連続物語ノイローゼが生れなければ幸である。
加藤秀俊著作データベース
文書管理番号: 2437