加藤秀俊 著作データベース
イスラエルのことなど
発行年月: 19990801
掲載 : 俳句朝日８月号
発行元 : 朝日新聞社
国際会議での講演を依頼されて二年ほどまえにエルサレムにいったら、聴衆のなかからひとりの若者がやってきて、じぶんはイスラエル俳句協会の人間である、ついては一句・・とたのまれた。これにはこまった。なにしろ俳句なんて、学生のころに遊び半分にやったことがあるだけ。でも、しかたないから文字どおり苦吟してつくった。かれは、それを英訳し、さっそくボストンの仲間にインターネットで送ったという。どんな句をつくったのか、ノートを紛失したので記憶がない。しかし、俳句というものがこんなに世界にゆきわたっていることには、あらためて驚嘆した。
わたしはどこにいっても、毎日かならず一時間は散歩する。ここにあげた五句は、おおむねその散歩で思いついたもの。老人はとにかくあるけなくなってはおしまいなのである。
■■ 散歩 ■■
一輪の椿あかるく石地蔵
残雪の浅間におよぐ鯉のぼり
なでしこもいろどりそえて春の膳
柳芽ぶいて年寄りたちの足かるく
金星と月とネオンと一直線
加藤秀俊著作データベース
文書管理番号: 2084