加藤秀俊 著作データベース

無遠慮な文化誌(フランク・ミューア)

発行年月: 19930401
掲載  : スミセイベストブック 7月号
発行元 : 住友生命



書評                        加藤 秀俊

フランク・ミュ−ア『無遠慮な文化誌』(中西秀男訳・筑摩書房)
 著者はイギリスBBC放送の台本作家でしかもキャスタ−として有名な人物。たいへんな博識な文明評論家でもある。そのミュ−アが古今東西の文献を渉猟しながら文学、芸術から飲食、教育などさまざまな領域についてのこされた名言を集大成したのがこの本だ。
 名言といっても、ここにあつめられているのは風刺と反語にみちたものばかり。社会と文化をいささかひねくれた観点からながめたことばが書きつらねられている。たとえば文学の項には「文学とはわかりきったことをオ−ケストラに編曲したものだ」(ワイルダ−)「文学運動とは同じ町に住んで互いに心から憎み合う五、六人で成り立つ」(ム−ア)といった強烈な皮肉が書きつらねられているし、教育の項にはつぎのような名言が満載されている。「歴史の本がいろいろできているが、あの本を書いたインクはすべて液体化された偏見である」(トウエイン)「大勢の人に高等教育を授けるーーそれは自家撞着というものだ」(ニ−チェ)「困ったことだ。近ごろは頭のいい善良な子供が無学な教師のために何人だめにされたかわからない」(エリオット)
 通読するのもよいが、どのペ−ジをひらいてもおもしろい。世界をこのように批判的にしかも軽快なシニシズムでながめていた人物がこんなにたくさんいた、というのも教訓的だし、それを丹念にあつめて注釈をつけた著者はただものではないとおもう。


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文書管理番号: 1252