加藤秀俊 著作データベース

デジタル・ナルシス(西垣 通)

発行年月: 19920101
掲載  : スミセイベストブック
発行元 : 住友生命



書評 加藤 秀俊

西垣 通『デジタル・ナルシス』(岩波書店)

 コンピューターという機械は、あっというまにわれわれの生活のなかにはいってきた。世に「ワープロ」という名前でよばれている文書作成機械も、じつは文書作成に特化した単機能のコンピューターなのだから、いまや日本人すべてのものになったといってよい。もしも一九六〇年代にはじまる「電化ブーム」がわれわれをあたらしい時代に誘ったとするなら、コンピューターは第二次電化ブームを象徴するものといってよいだろう。しかし、冷蔵庫や掃除機がいわば人間の筋肉系の機械であるのにたいしてコンピューターは神経系の機械だ。したがって、それを設計したおおくの学者や技術者にはそれぞれの思想があり、信念があった。この本はその歴史をふりかえりながら、現在のコンピューター時代を洞察した名著である。筆者は技術学者だがその筆致は文学的でさえある。わたしの先生であったグレゴリー・ベイトソンのような異色の学者をあらためて認識してくれていることなども、わたしにとってはふかいよろこびであった。コンピューターなどというものを毛嫌いしているひとたちにぜひ読んでほしい書物である。


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文書管理番号: 1102