加藤秀俊 著作データベース
長崎海軍伝習所（藤井哲博）
発行年月: 19911001
掲載 : スミセイベストブック（１０月）
発行元 : 住友生命
スミセイ・ブックス 加藤 秀俊
藤井哲博「長崎海軍伝習所」（中央公論社）
日本の近代化は明治維新からあとだというふうにかんがえているひとはすくなくないが、じつは徳川幕府の末期にはすでに西洋の近代にたいする興味と、その近代技術を積極的に学習しようという意欲が高まっていた。そのような意欲にたいしてさいしょに系統的な教育がおこなわれたのがこの本の題名になっている海軍伝習所であった。ここではオランダの海軍士官たちが幕府の若者たちをあつめて訓練をはじめた。近代の海軍装備をととのえるために、幕府は資金と人材をここに投入したのである。勝海舟などもその学生のひとりであった。この本は、あまりよく知られていない一九世紀の長崎の海軍訓練学校の成立とその歴史を紹介してくれる好著である。日本の工業化のめざましい成果の秘密のひとつは、このような維新以前からの「近代」への好奇心がつよくはたらいていたからなのである。この書物を読めばその事情もよくわかってくる。戌臨丸が太平洋を自力で渡ることができたのも、この学校があったからであった。忘れられた歴史をここでふりかえってみることもだいじだろうとおもう。
加藤秀俊著作データベース
文書管理番号: 1050