加藤秀俊 著作データベース
心の習慣（ロバート・ベラー）
発行年月: 19911001
掲載 : スミセイベストブック（１０月）
発行元 : 住友生命
スミセイ・ブックス 加藤 秀俊
ロバ−ト・ベラ−「心の習慣」（みすず書房）
一般に馴染みは薄いかもしれないが、著者のベラ−は日本の近世思想を研究した社会学者で、日本資本主義の成立にあたって浄土宗や心学のような宗教倫理のはたした役割をみごとに分析した学者として知られている。しかし、かれはけっして日本学者ではない。アメリカ社会学のよき伝統をうけついだ研究者で、現在はハ−バ−ド大学で社会学を担当している。そのベラ−が、この書物では現代アメリカのなかで多くのアメリカ人がわかちあっている価値をみごとにえがきだしている。かれとその協力者たちは、二百人におよぶアメリカ市民と長時間にわたって面接し、それらの面接記録を素材にしていったいアメリカ精神とはどのようなものであるのか、それは現代アメリカ人の思考や行動にどのようにあらわれているのか、について鋭い考察をくだしている。
じっさい、かんがえてみると、われわれの周囲にはアメリカ的な事物があふれているし、いままでの歴史的事情から、アメリカという国を身近かに感じている。しかし、そのことは、われわれがアメリカをよく知っている、ということを意味するものではない。アメリカに旅行したり、かなり長期に滞在したりする日本人はふえてきたけれども、民衆レベルでいまアメリカ人がなにをどうかんがえているのかについては、あまりわかっていないのだ。この書物は専門書の部類にはいるのだろうが、現代アメリカを理解しようとするすべての読者にすすめたい。これからさきも名著としてのこるであろう一冊である。
加藤秀俊著作データベース
文書管理番号: 1005