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　今回のつながりの会、横井也有から大田南畝の方向に話しが進むかと思っていたのですが別の方向に行ったので、頂いた資料の中に興味を持った名前があったので投稿します。
　まず、大田南畝ですが、森鷗外の史伝『伊澤蘭軒』に登場してきます。
　江戸の漢詩人については、昨年出版した『パイプ随筆』を編纂している時、中村真一郎の文章を入れたため、必要に迫られて『蠣崎波響の生涯』と『木村蒹葭堂のサロン』を読み興味を憶えました。鷗外の史伝を読むにあたって、少しは知っておかないといけないと思ったからです。
　蠣崎波響も『伊澤蘭軒』に登場します。この史伝の主要人物には蘭軒本人の他に菅茶山がいます。前半は茶山の話か蘭軒の話か読んでいて判らなくなるほどです。その茶山は死の直前、生涯の記憶に残る事として、犬塚印南と伊澤蘭軒と遊んだ日、蠣崎波響と僧六如と遊んだ日の事を挙げています。恥ずかしながら、今になって20年ほど前北海道勤務時代、松前で観て強い印象を受けた『夷酋列像』の作品が波響の手になることを知りました。
　そして、波響の友人が木村蒹葭堂であり、その交友関係の中に松浦静山が登場します。木村蒹葭堂も面白すぎる人物です、今度大阪に行った際は旧居跡にある大阪市立図書館を訪れてみたいと思っています。蒹葭堂と静山の共通の趣味の一つに根付けの蒐集があるというのも興味深い点です。
　松浦静山の名は、まことに軽薄なのですが『妻は、くノ一』というTV時代劇を見て知りました。隠居した元平戸藩藩主、蘭癖でしかも剣の達人であるという松浦静山がまことに格好良い、しかも実在の人物というのです。最も演じていた田中泯という役者の魅力に負う部分も大きいのですが、田中泯は今放映中のNHKテレビ小説『まれ』で能登に伝わる「揚げ浜式製塩」の伝承者を演じていて、注目されています。
　本当に剣の達人なのかと調べると、「余が剣法を学びしは心形刀流の甲州派なり」と静山は記していました。「心形刀流」は17世紀に伊庭秀明が創始者となっておりますが、この一門で剣豪として名をはせたのは江戸末期に五稜郭で活躍した伊庭八郎でしょう。八郎の弟が伊庭想太郎で、星亨を暗殺した人物です。この息子は伊庭孝で浅草オペラを作ります、鷗外のところにも出入りしていました。二人の関係は坪内祐三著の『父系図（異色の親子たち）』の中で「身命を公天に捧げた暗殺者の息子は行動するオペラ作家」として紹介されていますが、「杉山茂丸・夢野久作」「淡島椿岳・淡島寒月」と共に興味深い親子です。
　話がそれてしまいましたが、松浦静山の最も興味深いところは『甲子夜話』という膨大な量の記録を残したことでしょう。正編100巻、続編100巻、第三編78巻になります、平凡社東洋文庫で出版されているのですが、全20冊にもなります。拾い読みをしましたが、面白い。読んでいると、江戸の風景が浮かび上がってきます、静山は江戸では無く江都と表記していますが。勿論大名なので、通常の庶民感覚ではありませんが。
　大火が無くなってしまった現代では、火事がここに書かれているような大事で、また大名にとって腕の見せ所とは思いませんでした。忠臣蔵でしか火事装束は見る機会はありませんが、甲冑を着用する事も無くなった江戸中期には重要な装束だったのでしょう。平戸藩と云う事もあり、海外事情にも注意を払い、密かにオランダ人と会ったりもしています。記述は微に入り細に入りしています、そのためかなりの資料を集め書き写しています。最も、この甲子夜話を書くためにネタを強引に拾い集めている節も伺えます。

『甲子夜話』は以下のwebで実物が見られます。
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/i05/i05_00804/index.html

それと、落語の演目にある「鈴振り」「紀州」のネタ元は静山の『甲子夜話』であることを初めて知りました。残念ながら、まだ『甲子夜話』のどこに載っているかは確認しておりません。
志ん生の二席を挙げておきます。
「鈴振り」
https://www.youtube.com/watch?v=3BRRMRindUs
「紀州」
https://www.youtube.com/watch?v=HKZn8TBs91g

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記事No.1993 へのコメントです。

おやおや、同好の士がおられましたね。わたしも「甲子夜話」全巻を買って、昼寝の友としてずいぶん読んできました。あれはいうなれば現代のゴシップ週刊誌みたいなところがあって、日常茶飯のことを記録しているのがおもしろい。

この大随筆集については氏家幹人さんの「殿様と鼠小僧」という名著（中公新書）があります。

それもこれもふくめて、水戸光圀から橫井也有までの「隠居列伝」のようなものを近刊の「メデイアの展開」という本に書きました。5月10日発売。

ついでながら、松浦静山は名を「清」字（あざな）を「栄三郎」といっていたようです。隠居してからの雅号が静山。むかしはひとりの人間が複数の「名前」をかなり勝手に「名乗って」いたのですね。

雅号、筆名（ペンネーム）、芸名などおもしろいものがあったらこのコメントチェーンでどうぞ。
そういえば、このごろは「ラジネーム」というのもありますね。

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記事No.1995 へのコメントです。

広島県府中市に縁があり、周辺の文化施設として、今は福山市になった神辺町の管茶山記念館へ行ったことがあります。頼山陽は管茶山のお弟子さんだったようで、竹原で出会ったとのこと。竹原には、朝ドラの舞台になった竹鶴酒造もあります。風情のある街並みを保存されていますね。管茶山もたくさん名前があったようで、記念館のページには、名は晋帥(ときのり）、字は礼卿（れいけい）、通称は太中・太仲（たちゅう）、幼名を喜太郎（きたろう）、元服後百助（ももすけ）と改め、茶山（ちゃざん）と号した。酒造業で神辺東本陣主人も勤めた菅波樗平（すがなみ　ちょへい）と半（はん）の長男として、1748（延享5）年2月2日、備後の国安那（やすな）郡川北村（現在の福山市神辺町川北）に生まれた。とあります。

筑波に近い、牛久には、河童の絵などで有名な画家の小川芋銭（おがわうせん）が住まわれていました。雅号の「芋銭」の由来は、イモが好きなので、「自分の絵が芋を買うくらいの銭（金）になれば」という思いによるとのこと。横山大観と同時代の人ですが、名前の付け方の感覚が、ひょうげているのが、生き方を反映していておもしろい。弱きを助け強きを挫く優しい人柄だったそうです。先月、在インドネシア日本大使館の待合で、彼の「夕風」の複製に出会ったときは、何故ここにと、不思議な気がしました。「橋のない川」の著者、住井すゑが近所に住んでいて、彼女は芋銭に絵を書いてもらって、それを吉川英治に買ってもらっていたそうです。利根川に初めてかかった本格的橋梁は、栄橋（1930年（昭和5年）3月21日 - 布佐町（現在の我孫子市）と布川町（現在の利根町）の間に開通）とのことで、芋銭が、絵葉書の絵を書いています。茨城県側の利根町では柳田國男さんが子供時代に、徳満寺で「間引き絵馬」に出会っています。

川喜田半泥子の評伝、おれはろくろのまわるまま、千早耿一郎著を読んでいて、横井夜雨（よこいやう）に出会いました。この方、実業家。名古屋生。本名半三郎。慶應義塾卒業後王子製紙に入社、参与を務める。その後樺太に山林会社を設立する。益田鈍翁を私淑し、茶の湯を能くする。茶会記の研究及び古陶の研究家としても知られる。とのこと。鶉衣（うずらごろも）の著者、横井也有（やゆう）を最初は「やう」を読んでいました。夜雨も名古屋の人だったそうで、きっと也有にあやかったのでありましょう。陶芸家の友人は、根津美術館で、慶応大学茶道部の世話を長いことしていました。伝統を感じます。（6月18日）

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記事No.1997 へのコメントです。

菅茶山と賴山陽の関係ですが、若干ぎくしゃくしたところがあったようです。山陽の素行に問題があるようですが、山陽は脱藩して幽閉され廃嫡されています、最もそのおかげで『日本外史』を書く時間ができるのですが。その山陽を茶山は神辺の適塾の塾頭に迎え跡継ぎにしようと思っていたのですが、山陽は京都に逃げだしてしまいます。茶山から伊澤蘭軒への手紙には多少非難じみた文言が見受けられます。幸いその後二人の関係は修復されます。

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記事No.2001 へのコメントです。

黒時計連隊さま
なんと、そのお話、梅棹忠夫さん著「福山誠之館」にも出てきますね。偶然の一致とはいえ、びっくりしました。

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記事No.1995 へのコメントです。

有り難うございました。5月10日を愉しみにしております。『殿様と鼠小僧』は版元が中公新書から講談社学術文庫に移って出版されていました。
名前ですが、静山が『甲子夜話』に掲載している、信長・秀吉・家康とホトトギスの逸話があります。
静山は織田信長は織田右府、豊臣秀吉は豊太閤、徳川家康は大権現様と官位・神号で表記しています。諱になるので、徳川家家臣の静山が徳川家康などと言えるはずもないのですが。
でも諱の慣習があるので、他の名前は自由につけても許されるようなところがあったのではと思います。
名前で面白いのは宮武外骨、これが本名というのはすごいと思います。

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記事No.2002 へのコメントです。

またなつかしい人名がでてきましたね。宮武外骨はわたしの好きな人物なので、まえにすこし勉強したことがあります。

念のため吉野孝雄「宮武外骨」を再読したみましたら、このひとは讃岐の生まれ、宮武吉太郎というひとの四男で慶応三年正月の冬の土用の日に生まれました。日巡りから、この日に生まれたこどもには「四つ足の名」をつけなければならないという俗信があり、したがって虎、熊などが候補にあがりましたが、すでに同名のひとが近隣にいたので「亀」をえらんで「亀四郎」と名づけあっれたそうです。のち十七歳のときに「亀外骨内肉者也」（カメは外側に骨があり肉は内側）という康煕字典の辞解をみて「外骨」という名前に改名して正式に改名届をだした、と記録されています。

名づけにはいろんな事情がありますが「外骨」とはよくぞ思い切った珍名かもしれませんね。ほかにも「名づけ」「改名」の事例がありましたら教えてください。

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記事No.2003 へのコメントです。

宮武外骨の「アメリカ様」（ちくま学芸文庫）を本屋さんで見つけて、思わず買いました。解説の西谷修氏の文章は印象深い。2014年2月10日第一刷印刷。終戦（敗戦）の後すぐの1946年5月3日（東京裁判の開廷日でもある）に出版されたものの復刻版です。アマゾンに解説があります。星2つの不思議な感想文が一つ。同書のp28には、佐倉の義民、佐倉惣五郎の話もありました。
一世を風靡した漫画”ONE PIECE”にブルックという名の外骨キャラクターが出てきます。主人公のルフィ―はじめ彼らも海賊というアウトローで、その冒険活劇を楽しませてくれました。漫画の著者は、宮武外骨を連想していたのやもしれません。

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